術後の諸問題

1.喉頭摘出術後の生理的変化

喉頭全摘術後の身体の変化は、一口でいえば、「気道と食道の完全分離」です。いうまでもなく、発声器官としての喉頭がありません。。

  1. 呼吸すなわち肺のガス交換に必要な空気の出し入れは、すべて気管孔を介して行われる。特別な場合を除き、空気は鼻や口を通らない。
  2. 飲食物は口⇒咽頭を通って直接、食道⇒胃に送られる。喉摘手術の前後

その結果

  1. 喉頭喪失のため、術前と同じ発声ができなくなる
  2. 嗅覚を感じる部分に臭素を含む気流が届かず、嗅覚が低下する
  3. 口からの空気の出し入れが困難となり、熱いものを吹いて冷ませない
  4. 同様の理由で、啜りこむ動作が困難となる
  5. 食道の一部に手術が及ぶ(単純喉摘でも!)ので、飲み込みに種々の程度の影響が起こりうる⇒下咽頭・食道形成後はとくに!!
  6. 必要な時に、のど(喉頭があった時には声帯の部分)を強く閉められないので、いきむ動作(腕に力を入れる動作を含み)が弱くなりうる
  7. 術前は無意識に飲み込んでいた気道からの分泌物(早くいえばタン)の出口が気管孔だけになるのでタンが多くなったという自覚が起る
  8. 鼻を介して湿気のある空気を吸うこと、埃をよけることが不可能となる
  9. とくに食道発声を練習しようとすると空気を飲み込んで腹が張り易い
  10. 人工呼吸は、気管孔からだけとなる

利点は

 1.食事にむせることがなくなる
    2.食事がのどに詰まって(正月の餅など!)窒息する怖れがなくなる
    3.口の中の汚染が気道⇒肺に入って肺炎を起こすという怖れがなくなる

これらの詳細について術前に十分な説明を受けておくことが必要。

2.幾つかの問題点

    1.超高齢社会の実現と喉頭ガン
        高齢になってからの発病が多い
        ⇒無喉頭音声の獲得が必ずしも容易でない
        生活習慣病の併存が多い
        重複ガンの可能性が低くない
    2.日本と欧米の傾向の違い
        日本では、患者の互助組織が強固、しかも伝統的に食道発声重視
        ⇒言語聴覚士や医師の介入が必ずしも一般的とはいえない
        ⇒ 言語聴覚士、医師内で、この問題に興味を持つ人が少ない
        ⇒食道発声以外の方式についての情報が得にくい
        アジアでは、まだ全摘が主流⇒食道発声、ELが主体
        欧米では、シャントが多く、ELがこれに次ぐ
    3.治療方針の決定は、医療施設、主治医の判断に任される(前述)
    4.術前の説明と同意(インフォームド・コンセント)は十分だったか?
    5.術後、主治医とのコミュニケーションは十分か?

(公益社団法人 銀鈴会ホームページより出典)